名古屋で13年振りに『落語家』が誕生! 名古屋落語界期待の新星登龍亭獅鉄さんインタビュー(3)

噺一つで笑いも涙も自由自在に誘う日本の伝統芸能・落語。ナゴヤビトでは、名古屋で13年振りに誕生した名古屋落語界期待の若手落語家・登龍亭獅鉄さんにインタビュー行いました。

パート2では獅鉄さんと落語との出会い、そして登龍亭獅篭師匠への入門に至る道のりをお伺いしました。

[パート1はこちら]
[パート2はこちら]

パート3では「年季明け」という仕組みについて、そして前座時代のお話へと進んで行きます。

―― 三年間の前座修行を経て、11月6日をもっていよいよ「年季明け」となりました。ただこの「年季明け」という言葉、一般の方ではなかなか馴染みが少ないかと思います。改めて詳しくお聞かせ頂けますでしょうか。

「年季」というのはいわゆる「年季奉公」のことで、前座修行として身の回りのお世話をしながら勉強して、いろいろ働かせてもらって吸収して、そこから「年季明け」になると「一人前として独り立ちする」ということになります。

よく聞く「前座」「二つ目」「真打」というのは東京の落語業界の仕組みで、大阪の落語業界では「年季」と「年季明け」という仕組みになっています。この大阪の仕組みで名古屋もやっているという形になりますね。

―― 東京で言う「二つ目」と「真打」が合わさっているのが「年季明け」ということですね。

そうなります。

年季システムのメリットとしては「年季が明けた時点でどんな仕事でも取れるようになる」ということですね。真打制度だと「そういう仕事は真打じゃないと」となるところも、年季システムならいかようにもなるんです。もちろん業界の暗黙の掟みたいなのはいろいろありますが、年季明けしたら自分の判断で動けるようになるというのがあります。
一方でデメリットもありまして、まずは年季システムがあまり知られていないことがあります。名古屋の落語ファンの方でも「年季明けします」と伝えると「真打になられるんですか?」と聞かれる方もいらっしゃいますし、それだけ東京の前座・二つ目・真打制度が浸透しているんだなと感じます。

もう一つ、年季システムだと真打昇進のようなお祭り的なお披露目みたいなことがないんですよね。東京だと真打昇進の時にパーッとお披露目興行みたいなことができるんですが、年季明けというのはようやく一人前になったばかりというタイミングの1回しかないので、よほどの大きな名跡を継ぐとか芸歴何十周年のツアー等の形でなかなか難しいのが弱点かもしれません。

―― ありがとうございます。さて、前座時代の話に戻りますが、前座時代の修業ってどのようなことをされていたんでしょうか?

そもそもそれを手探りで探すところから始まりました。「前座って何をすればいいんだろう」と。

―― あー、名古屋には前座がいなかったですもんね……。

そうなんです。とはいえ、私の場合には落語会の裏方として手伝いをしていた経験もありましたので、それとなく検討はついていたところはありました。それを頼りに「たぶんこういうことをするんだろう」「ここまですれば良いだろう」ということを手探りでやっていく日々でしたね。朝行って掃除してとか、挨拶してお茶出してとか、叩ける太鼓は叩いてとか。着物の着替えを手伝ったりとか。一つ一つを手探りでやっていくうちに気づけばあっと言う間に半年ほど経っていました。

それと並行して、大須演芸場で毎月開催される定席寄席にいらっしゃった東京・大阪の兄さん姉さん方に「そもそも前座って何すれば良いんですか?」と聞いて勉強していきました。前座としての言葉遣いとか、振る舞いとか、考え方、価値観などをそこで全部習って「ああ、こういうことなんだな」と分かっていった感じですね。

―― そうすると、落語そのものの修行、稽古はどのようにされていったんでしょうか?

本当はどなたかお師匠さんに対面で見させてもらってそれを覚えるという形が基本なのですが、師匠の獅篭からは「まずはyoutubeを見て覚えなさい」と言われることが多かったですね。前座のネタについては幸福師匠から対面稽古でつけてもらうことも多かったです。

落語の世界では本来はいろんな師匠さんたちに稽古をつけてもらう方がいいと言われています。一人の師匠からばかり教わるとどうしてもクセがついてしまうと。名古屋で教わることが出来るのは師匠の獅篭、幸福師匠、福三兄さんになるのですが、獅篭はyoutube派で、福三兄さんは新作落語がメインなので、いわゆる稽古となるとどうしても幸福師匠に限られてしまう。そのため、一時期は幸福師匠のクセがついていると指摘されたこともありました。

東京大阪であればいろんな師匠について教わることも出来るのですが、落語家の人数そのものが少ない名古屋ではその部分での難しさがあります。3年目になって東京や大阪から来られたお師匠さんたちに稽古をつけてもらうことを師匠から許可を頂いたんですが、そのタイミングでコロナ禍になってしまったんですよね。

―― あららら……。

いよいよ教えてもらえる!となったタイミングで東京や大阪の師匠が名古屋に来られなくなってしまいましたし、もしいらっしゃっても楽屋へご挨拶に行くことすら難しくなってしまったんです。これは正直辛かったですね。それもあって古典の勉強は難しい面が出てしまい、新作落語へと舵を切っていく形になりました。

―― 名古屋ならではの苦労ですね。

名古屋独自の部分が多く、普通の落語業界とは違う部分の難しさはありました。

―― とはいえ、落研時代の経験もあり、落語の世界をある程度知っていた獅鉄さんだからこそ改めて名古屋落語のレールを敷くことができた部分も大きかったのではないかと感じます。

そうですね。落語会を準備するにあたっても独特の専門用語なども飛び交いますので、それをある程度アマチュア落語で勉強してからこの世界に入ったというのは大きかったと思います。私自身も意識して即戦力になろうと思っていましたし、分からないことはすぐに聞いて分かっていることはすぐに結果を出せるようにしていこうとはずっと思っていました。裏のことを分かっていたというのは強かったですね。

――だからこそ今、篭二さんが前座修行を出来ているという部分もあるかもしれませんね

実はマニュアルとまでは言わないですが、前座としての挨拶の仕方から最初に身につけるべきこと、やった方が良いことなどをまとめていました。篭二が入門した時にも最初にそれを送って覚えさせ、翌日出来ているかどうかを確認するいったことをやっています。完全にレールを敷いておいた形ですね。

―― かつて東海道線建設のために武豊線が敷かれたときのように、名古屋に落語家になるレールを改めて敷き直したということですね!

本当にそうなんですよね。名古屋でこうしたレールを敷くというのが出来たというのは、名古屋落語に私が貢献できたできたことではないかと感じています。

長らく『前座』がいなかった名古屋落語界ゆえに、まずは“前座のレール”を改めて敷いていく必要があったというのは驚きでした。それを乗り越えて行けたのも獅鉄さんがアマチュア時代から落語や演劇などの様々な経験を積んできた賜物だと感じます。

とはいえ、東京・大阪とは異なる苦労もあった前座修行ですが、名古屋だからこそのメリットも大きかったようです。この話の続きはパート4にて。

[パート4に続く]

登龍亭獅鉄さんの落語会情報など最新情報はTwitterにてご覧下さい!

Swind/神凪唐州

作家 兼 名古屋めし専門料理研究家。
名古屋と名古屋めしをテーマに小説、漫画原作、料理本、コラムなどを執筆。

名古屋めしレシピ動画&生配信→http://youtube.com/c/swind758/

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