名古屋で13年振りに『落語家』が誕生! 名古屋落語界期待の新星・登龍亭獅鉄さんインタビュー(1)

噺一つで笑いも涙も自由自在に誘う日本の伝統芸能・落語。江戸・上方を中心に全国におよそ1000人前後の落語家がいると言われていますが、そのうち名古屋の落語家は何人かご存じでしょうか?

正解はわずかに3人。そしてこの11月、登龍亭獅鉄さんが3年間の前座修行を終えて晴れて年季明け、名古屋では13年振りとなる4人目の名古屋落語家が誕生しました。

13年ぶりに誕生した名古屋落語家・登龍亭獅鉄さん

過去最大の人数を更新し、ますます盛り上がる名古屋落語界。そこでは今回は、令和の“芸どころ名古屋”を担う期待の若手落語家・登龍亭獅鉄さんにお話をお伺いしました。

(注:登龍亭獅鉄さんの「鉄」の字は正確には「金へんに矢」となりますが、機種依存文字となるため記事中では通常の「鉄」にて統一させて頂いております)

―― 本日はよろしくお願いいたします。最初に獅鉄さんのご経歴からお聞かせ下さい。

生まれは岐阜県大垣市、高校を卒業してから名城大学に進学しました。学生数が多い名城大学ということもあり、仕事でいろんなところにお伺いした際に主催者さんやスタッフさんで名城大学出身の方がいらっしゃることも多く、ありがたいと思っております。

大学在学中は演劇サークル、落語研究会、鉄道研究会を兼部していました。

―― 三足のわらじですよね。大変だったんじゃないでしょうか?

大変でしたが楽しかったですね。本来の人生の設計では「鉄道会社に入って定年まで働く」はずでしたので、大学にいる間に遊べるだけ遊んでおこうと思っていたんです。しかし、その後で入った会社を辞めるとは……。当時は夢にも思っていませんでした(笑)

―― なるほどです(笑) 落研時代の高座名は「名城亭龍燃(めいじょうてい・りゅうねん)」とのことですが、無事に4年で卒業されているんですよね?

4年で卒業できました。ただ、大学4年生の時にはあと1単位落としたら本当に留年するというところまできていたんですよね(笑) 本物の「りゅうねん」になるかどうか、仲間内に話題になっていました。

―― 無事に卒業できて何よりでした。ところで話はいったん戻ってしまうのですが、初めて落語を聞いたのはいつだったのでしょうか?

まだ大垣に暮らしていた高校時代の多感な時期に、衛星放送のWOWOWで見たのが最初ですね。三谷幸喜さんや野田秀樹さん、音楽で言えば玉置浩二さんや井上陽水さん、伝統芸能でいえば能や歌舞伎とかを見ていたのですが、その中に『志の輔落語』があったんです。それを見て「落語ってめちゃめちゃすごいな」と言うことを知りました。

志の輔師匠の「徂徠豆腐(そらいどうふ)」という落語があるんですが、40分ぐらいの長い落語なのにあっと言う間に楽しめて、こんなスゴイ世界があるんだなと。そしてその次に聞いたのが志の輔師匠の「メルシーひな祭り」という新作落語で、それもめちゃめちゃ面白くて一気に落語に引き込まれました。

―― 寄席とかに連れて行ってもらったのではなく、テレビがきっかけだったんですね。

地方だとテレビやyoutubeがないとなかなか落語に触れられないというのがあるんですよね。プロの若手落語家の方でも最初はテレビで見たのがきっかけで、そこからホール落語を見に行ったり寄席に行ったりという方も多いようです。

―― そうすると、大学に入る時には落研に入ることを決めていたんでしょうか?

実は最初は演劇サークルに入ろうと思っていたんです。その理由の一つが「集団行動を勉強したい」ということ。これから社会に出て行くときにチームやみんなで集団で動くという場面は出てくるので、そうしたことを本格的に勉強したいなと考えた時に演劇の劇団というのはピッタリだなと思ったんです。

それで大学に入って演劇サークルの劇団獅子に入るんですが、たまたま同じ高校出身で同じ名城大学に入学した同窓生が落研に入っていたんですよ。そして「お前演劇やってるんだったら落研にも来いよ!」と誘われまして、大学2年ぐらいから落研も兼部するようになりました。

―― 先に演劇サークルで、そこから落研を兼部という流れだったんですね。そうすると鉄道研究会は一番最初からだったんでしょうか?

これが一番最後なんですよね。子どもの頃から好きだったので、大学でわざわざ鉄研に入るかというと、ちょっとハテナだったんですよね。それよりは知らないジャンルに飛び込んでいこうとそちらを優先していました。鉄研に入ったのは3年生の終わりぐらいです。

―― 大学卒業後は愛知環状鉄道に就職されたとのこと。これはやはり鉄道が好きだったからということでしょうか?

そうですね。趣味が高じてということに加え、子どもの頃からの夢というのもありました。もともとの夢は「JR東海に入って東海道新幹線の車掌になる」が第1希望で、第2希望で「名鉄の名古屋本線の車掌になる」だったんですが、最終的にご縁があったのが愛知環状鉄道でした。

―― 駅員から車掌と忙しい日々を過ごされていたようですが、その頃も落語は続けていらっしゃったんでしょうか?

落語を見に行ったりYoutubeで見たりということはありましたが、鉄道の仕事は休みが不規則なので自分が落語をやる側になるというのはほとんど出来なかったですね。社会人落語、アマチュア落語という形で活動してみたかったんですが、年末年始など人が休みになっている時ほど忙しい職場でしたので、残念ながらそういうことが出来る状況ではありませんでした。休みがたまたま空いたら落研時代の仲間と落語会を聞きに行くというのはやってました。

―― そこから2015年に会社を退職されて、2018年に雷門(現:登龍亭)獅篭師匠に入門されます。その間はどのように過ごされていたのでしょうか?

会社を辞めてからスケジュールがつくようになったので、アマチュアとして落語に取り組んだり、大学時代からやっていた演劇の裏方をやったりと、本格的に活動を始めていました。

―― 実は獅鉄さんとはその頃にお会いしているんですよね。あるイベントでお会いしたときに「獅篭師匠に弟子入りするんです」とお話をお伺いしたのを覚えています。

そうでしたそうでした。懐かしいですね。後に師匠となる獅篭に「弟子入りさせて下さい」とお願いしたのは2017年12月ぐらいだったと思います。そこから1年ぐらいはかばん持ち的な形で過ごしていました。

―― 見習いの見習い、みたいな形ですね。

その頃はまだ本当に弟子を取られるのか分からなかったんですよね。師匠の獅篭も「とったらどうしようか」とか「どういうシステムにしようか」などいろいろ悩まれていたんだと思います。

―― 獅篭師匠や登龍亭幸福さんは立川一門から移られてきた方ですし、登龍亭福三さんも演劇で長く実績を積まれてきた方。そもそも名古屋で一から前座を務めるというのがここ最近では初めてになるということですよね。

そうなんです。そう言う意味でも今までとは違った部分は大きかったです。

―― そしていよいよ正式に入門が認められて、最初についた名前が「字音亭ザク」。実はこの名前、獅篭師匠が以前に描かれていたマンガ(風とマンダラ)で「弟子を取ったらつけたい!」と仰ってたのを読ませて頂いてたんですが、まさか本当につけるとは……(笑)

師匠は本気でした(笑) それから「雷門獅鉄」に代わり、2020年4月には一門の亭号が代わるということで「登龍亭獅鉄」となりました。

―― そして3年の修行を経ていよいよ2021年11月6日に年季明け。6日、7日は大須演芸場でのお披露目もありました。改めておめでとうございます。これで名古屋のプロ落語家は4人となり、過去最多となったそうですね。

ありがとうございます。とはいえ、名古屋はアマチュア・社会人落語家が多い一方でプロの落語家が非常に少ないので、もっと増やしていかないとと思っています。

もともと東京や上方以外の地方都市は「落語家を招く」ところのですが、その中で名古屋は関東大震災の後に東京から落語家が移住し、そこから名古屋落語の系譜が出来るというちょっと特殊な事情がありました。今のように地方都市に定住する落語家が本格的に現れ始めたのは平成の中期後期ぐらいからですね。

―― それは東京や上方でどんどん落語家が増えていることも関係あるのでしょうか?

そういう話はよく聞きます。地方での活動を増やしたり、もともとの地元をホームグラウンドとして育てていくようなことをしていくことも求められているようです。

登龍亭獅鉄さんへのインタビューはまだまだ続きます。続きはパート2にて。

[パート2に続く]

登龍亭獅鉄さんの落語会情報など最新情報はTwitterにてご覧下さい!

Swind/神凪唐州

作家 兼 名古屋めし専門料理研究家。
名古屋と名古屋めしをテーマに小説、漫画原作、料理本、コラムなどを執筆。

名古屋めしレシピ動画&生配信→http://youtube.com/c/swind758/

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