噺一つで笑いも涙も自由自在に誘う日本の伝統芸能・落語。ナゴヤビトでは、名古屋で13年振りに誕生した名古屋落語界期待の若手落語家・登龍亭獅鉄さんにインタビュー行いました。
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パート4では名古屋での前座修行を行って良かったこと、そして晴れて年季が明けた登龍亭獅鉄さんのさらなる目標についてお伺いします。
―― 名古屋で前座修行をして良かったことをお聞かせください。
東京・大阪の両方の芸に触れられるというのが大きかったですね。名古屋にいると東京だけでなく上方の師匠さんや兄さん姉さん方とコミュニケーションとったり、落語を聞いたりする機会も多かったですね。上方の落語は途中で音を出したりとか、見台を使う文化があったりとかするのですが、そういった芸に触れられたというのはすごく大きかったです。
今は自分の新作落語でも見台を使うようにしていますが、これがあるだけで全然違うんですよね。やれることの幅が広がると感じます。他にも袖で音を鳴らしたり太鼓を叩いたりするハメものの新作も作ったりしています。そういう東京・大阪両方の芸を同時にバランスよく吸収できているのは大きいなと思います。
東京と大阪だと落語に対する考え方や価値観も違いますし、作法一つとっても違うところがある。その幅広い落語の世界をどちらかに偏ることなく、どういう形でもあっていいんだよというのをやれているのは、本当に名古屋で良かったなと思います。
―― そういえば以前にちらっとお伺いしたのですが、名古屋は前座が少ないのでたくさん上がる機会があるとか。
ざっくりとした計算ですが、東京の場合だと10日間の興行の中で一人の前座が落語を出来るのはせいぜい1席か2席、1ヶ月の間でも4席から7席しか機会がないことになります。しかし自分の場合にはたった一人の前座でしたので、大須演芸場の定例寄席だけでも7日間×2回の14席の出番。さらに師匠である獅篭や東京・大阪からいらっしゃった師匠兄さん姉さん方の落語会の前座で入るので、1ヶ月で30席ほど落語をする機会がありました。記録を自分でつけているのですが、一番多いときだと1ヶ月に40席落語をやっていたこともありましたね。前座なのに。
―― 異例中の異例ですよね。
売れっ子のお師匠さんの数ですね(笑) 前座が私しかいなかったので、結果として私に集中することになりました。場数が大事なのでめちゃめちゃ勉強になりましたね。やればやるほどチリツモのように経験が増えていきますし、やりながら客席を見ていくということもできるようになる。枕のレパートリーも増えていきますし、身体も慣れていきます。場所に合わせて声の出し方を変えることができるようにもなりました。最初に場数を一気に得られたのはものすごく大きいと思います。
最初の1年で古典の前座噺を20席身につけることができましたし、色んなところで色んな前座のネタをかけることができました。2年目からは新作も交えながらいろんな噺をかけるようになりましたね。
―― ちなみに一番お好きなネタは?
入門のきっかけとなった「勘定板」はもちろんですね。私も師匠に稽古をつけてもらって持ちネタにしています。それ以外ですと「権兵衛狸」というネタがありますね。何てことは無いののほんとした噺なのですが、この落語が好きで、別の師匠さんに稽古をつけてもらって自分の持ちネタとしました。
自分が今まで作った新作落語の中で好きな噺ですと、岐阜をテーマにした新作落語「ようこそ岐阜へ」というものがあります。30分以上ある長いネタなのでここぞというところでしかかけられないのですが、気に入っている噺です。
―― 獅鉄さんから見て獅篭師匠はどんな方でしょうか?
えーっと、どこまで話せば良いですか?(笑)
―― どこまでもお願いします(笑)
それでは(笑) 最初からずっと思っているのは師匠は「生き様が芸人」なんですよね。立ち振る舞い、雰囲気、生き方の全てが芸人なんですよね。なので、悪く言うと全然ちゃんとしていない、でも良く言えば「だからこそ芸人なんだな」ということを肌でひしひしと感じさせてくれる師匠です。
そう言う意味では私が持っていないものを持っている方だなと。私はついちゃんとしようと思ってしまうんですが、師匠はちゃんとしなきゃいけない時こそちゃんとしていない。だから師匠は根っからの芸人なんだな、と感じますね。
―― ずっと一緒に付いていらっしゃいましたもんね。
最近は篭二が入ってきましたが最初の2年ぐらいはずっと二人でしたので、弟子と言うよりマネージャーみたいな感覚になっている時期もありました。弟子としてそれが正しいのかというと悩ましいというか、弟子としてはそうなってはいけないと思うのですが……
―― 獅篭師匠のここがスゴイというと?
自分が「やりたい」と思ったこと絶対に否定しないんですよ。「やるならこういうことを気をつけろ」とか「ここには挨拶した方がいい」とか「ここまではいいけど、ここからは年季明けの方がいい」とか、やりたいことをきちんと聞いてちゃんと落とし所をつくってくれるんですよね。
それは師匠である獅篭自身が立川談志師匠の弟子としてやってこられた経験から来ているのかなと。
―― 獅篭師匠、前座でマンガの連載持っていらっしゃいましたもんね。
それを認めてくれたという経験があったから、私にもそうしてくれたのかなと思います。普通だったらダメどころか叱られることでも受け止めてくれますし、本当に懐の深い師匠だと思います。
―― 良い意味で談志師匠の心持ちを受け継いでいらっしゃるのでしょうね。さて、これからやっていきたい落語はどのようなものをお考えでしょうか?
新作ではオリジナルでハメものの練習になる落語を作りました。上方落語のように落語の最中に太鼓を打ったり鐘や銅鑼を鳴らしたりするのをコンパクトにまとめたもので、若手の練習用にも使えるネタです。篭二をはじめこれからの弟弟子たちのためのネタとして考えました。
こちらは大須でのお披露目の初日、年季明けの1発目でかけさせていただきましたが、これが出来たのは大きいですね。アマチュアではなくプロだからこそ必要なもの、後世に伝えて残さなきゃいけない要素が入ったものができたのは自分として大きいなと思います。
(著者注:上記の落語は12月31日までの期間限定にて登龍亭獅鉃さんのyoutubeチャンネルにて音声公開されています)
自分が上方のお師匠さんや兄さん方にハメものでの太鼓のたたき方や良く出てくるものなどを教わることができたので、大須演芸場では上方のハメものを使った落語をかけてもらえるようになりました。今は新作落語を通じて篭二に教えていますが、これを受け継いでいくとで、名古屋にも良い文化を残せるのではと感じています。
―― まさに名古屋ならではですね。ちなみに他に挑戦したいものとかありますでしょうか?
最近は旭堂左南陵先生から古典の講談を習っているのですが、これを落語っぽくしてやってみたいなということを思っています。講談は歴史も入って、東海地区は歴史的な意味は重要な舞台になっていますから、そういった東海地区に絡む講談を落語のように演じてみると面白いかなと思っています。
――確かに講談はご当地のものが多いですよね。さて、これから名古屋の最若手落語として落語も落語以外も含めてやってみたいことは何でしょうか?
「落語会やりたいけどどうしたらいいか分からない」「何からすればいいか分からない」という方がいっぱいいらっしゃいますので、そういう所に自分から積極的に飛び込んで行きたいと思っています。来年か再来年ぐらいを目処に愛知圏内の全市区町村で落語家を開きたいなと。残念ながらまだまだ登龍亭自体の知名度が低く、行く先々で「東海地区にプロの落語家がいたんですか?」と思われているんですよね。まずは登龍亭の知名度を上げていって、地元にもプロがいるよと知ってもらいたいと思っています。
―― やっとそういう落語会も開けるようになりましたもんね。
これまで大中小さまざまな落語会を経験してきましたので、裏のことまで全部分かるんですよね。落語家でも落語会の運営までレクチャーできるとは限らないのですが、私はむしろそちらができるタイプですので、東海地区の方にどんどん頼ってほしいなと思っています。
―― 私もすごく興味があるので、頼りにさせて頂ければと思います! これからも楽しみがいっぱいですね
これからもいろんなチャレンジを増やしていきたいですね。例えば、ドラムですとかタップダンスの方とかとコラボして何か出来ないかなと思っています。リズム系ならハメものの落語と合わせることができるかなと。他には、落語ですがあえて映像を流してそれと合わせて噺をするというようなこともありますね。38歳になったときには青春18きっぷを使って全国を回る「青春38切符ツアー」が出来たらいいなと思います。
落語会が戻ってきたとはいえ、まだまだ自分たちで企画した自主的な会が中心。世間と足並みを揃えてということにはなりますが、何処かでギアチェンジしてより多くの場所で落語に触れてもらえるようになると良いなと思います。
―― ありがとうございます。これからのご活躍、応援させて頂きます。
年季が明けて初めて一人前として「落語家」と名乗ることが出来るプロの落語の世界。名古屋では実に13年振りに「落語家」が誕生したということになります。
全くのゼロ状態から前座修行を一つずつ積み上げていき、さらに自分だけではなく後進のためにきちんとレールを敷いてこられた登龍亭獅鉄の尽力はこれからの名古屋落語界の盛り上がりの支えになると感じました。
そして登龍亭獅鉄さんご自身もこれからますますチャレンジを続けられていくとのこと。『芸どころ名古屋』に新風を吹き込む登龍亭獅鉄さんの活躍からこれからも目が離せません。
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