ナゴヤに縁のある様々なジャンルの書籍を著者へのインタビューを通じてご紹介する「ナゴヤビトブックス」。第24回は、舌津智之さん著書の『どうにもとまらない歌謡曲――七〇年代のジェンダー』(ちくま文庫)をご紹介します。
――舌津さんのご経歴を教えてください。
著者の舌津智之さん
「附小」こと愛知教育大学附属名古屋小学校から「附中」を経て、愛知県立千種高校を卒業するまで18年間、名古屋で過ごしました。東京大学へ進学したあと、大学院の博士課程では米国テキサスへ留学し、帰国後は、まず東京学芸大学、そして今は立教大学で、主としてアメリカの文学・文化を教えています。
――本の執筆を手がけられるようになったきっかけは何だったのでしょうか?
大学に勤める研究者は通常、同じ分野の専門家に向けた論文を書きますが、自分の研究を本にまとめる場合もあります。ただ、広く一般読者の目にふれる本という形で自身の考えを発信する以上、専門的な研究書ではなく、誰もが手に取れるようなものを書きたい、という気持ちはありました。
大学で研究されていることを、論文という形でなく本という形で拝読することができる。読み手にとってもとても嬉しいことですよね。
大学の講義では実際、ディズニー映画やポピュラー音楽など、皆がよく知っている大衆文化を論じることもあります。
――著書『どうにもとまらない歌謡曲――七〇年代のジェンダー』はどのような内容でしょうか?
1970年代にヒットした歌謡曲を取り上げ、その歌詞に込められたメッセージを分析しています。とりわけ、「男らしさ」や「女らしさ」の捉え方が大きく変わりつつあった当時、新旧の価値観がどのようにせめぎあっていたのかを考察しています。
多様な考え方が共存していた70年代は、21世紀の今を生きるうえでのヒントや発見に満ちた、古くて新しい時代であったと思います。当時の歌謡曲をリアルタイムで聴いていた世代の読者からは、「懐かしい!出てくる歌は全部知ってる!」といった声をよく頂きます。
著書に引用されている楽曲リスト。こんなにもたくさんの有名な歌謡曲が登場しています。
このナゴヤ経済圏からも、70年代にヒットした歌謡曲の歌い手が世に出ていますもんね。
「男らしさ」「女らしさ」という価値観がどう変わっていったのか、歌謡曲から考察されているということ。音楽とジェンダー論が結び付けられているのがすごく面白いと思いました!
読むのがどうにもとまらない内容で、一気に拝読させていただきました。
――この本を出版したきっかけは何だったのでしょうか?
もともと、2002年にハードカバーで出版された本の文庫化です。今なお読まれるべきであると、作家・評論家の小谷野敦さんからご推薦頂いた経緯もあり、筑摩書房の敏腕編集者である砂金有美さんがお声がけ下さいました。文庫化にあたっては、初版当初から本書を読んで下さっていた文芸評論家の斎藤美奈子さんに解説文を書いて頂きました。
――著書『どうにもとまらない歌謡曲――七〇年代のジェンダー』の裏話をお聞かせください
初版から20年が経っており、2002年当時には常識であっても、今の若い世代には通じないであろう話題もあり、補足が必要な箇所には今回、注釈をつけました。たとえば、(職場に自分の乳児を連れてくることの是非が問われた)「アグネス論争」といっても、今ではアグネス・チャンとは誰かを知らない人もいます。
1988年の新語・流行語大賞で流行語部門・大衆賞を受賞した「アグネス論争」ですね!
どこに加筆が必要か、私より一世代若い砂金さんと色々ご相談したのですが、結果として、①論じられている1970年代、②初版の出た21世紀初頭、③2020年代の今、という3つの時間が交差する面白い本になったと思います。
今回文庫化されたことで、3つの時代が交差してより深みのある内容に変化したのですね。この名著が文庫版として再出版されたこと、本当に感謝です。
「ポリアモリー(複数愛)」というテーマに興味
―― これから書いていきたい本はどのようなものでしょうか
大衆音楽や文学作品の中に描かれる「ポリアモリー(複数愛)」というテーマに興味を持っています。
歌謡曲でいうと、山本リンダの「どうにもとまらない」やジュディ・オングの「魅せられて」や竹内まりや/河合奈保子の「けんかをやめて」の歌詞に出てくるような、「同時に複数の相手を好きになる」という主題のことです。
「ポリアモリー(複数愛)」、興味深いテーマです!確かに文学作品などにも登場するテーマですよね。
アメリカと日本とのポリアモリーのニュアンスはまた少し違うようですが、パートナーとの繋がりが強いのも特徴なのでしょうか。
「ポリアモリー(複数愛)」は、LGBTと同様、性的マイノリティの一形態として、社会的に認知されるべきものではないかと考えています。
色んなセクシャリティなどが認知されてきた世の中だからこそ、こういった考え方も認知されてほしいなと私も思います!
――舌津さん、ありがとうございました!ますます舌津さんのワールドに引き込まれそうです。興味をもたれているテーマもそうですし、これからも舌津さんの新刊を拝読できるのを楽しみにしています!
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