ナゴヤに縁のある様々なジャンルの書籍を著者へのインタビューを通じてご紹介する「ナゴヤビトブックス」。第31回は、医師・山田茂樹さん著書の『成人慢性水頭症 ハキム病診療ハンドブック』(中外医学社、2024)をご紹介します。
山田茂樹さんご経歴
1989~1991年 名古屋市立菊里高校
1991~1997年 岐阜大学医学部医学科
1997~1998年 京都大学附属病院(研修医)
1998~2001年 彦根市立病院(研修医)
2001~2005年 京都大学大学院・博士課程(脳統御医科学系専攻)
家族性脳動脈瘤の遺伝子探索研究を行い、脳動脈瘤の関連遺伝子の同定
文部科学省科学研究費がん特定領域大規模コホート研究(JACC Study)に参加
2004年10月 フランス国立ゲノムセンター(Centre National de Genotypage)との共同研究で短期留学
2005年1月 東京大学 生産技術研究所 数値流体力学との共同研究で短期国内留学
2005年3月 大学院博士課程修了
2005~2006年 京都大学附属病院(医員)
2006~2009年 滋賀県立成人病センター(現:滋賀県立総合病院)
2009~2010年 京都大学(助教)
2010~2013年 浜松労災病院
2013~2019年 洛和会音羽病院
石川正恒先生と出会い、特発性正常圧水頭症(iNPH)について、症状・検査法・手術等の診療のコツについて学ぶ。iNPH関連の全国共同研究や診療ガイドラインへの参加、国際学会での発表、海外の研究者との繋がりなど多くの機会を与えて頂く。2015年以降は水頭症関連、特に画像解析と歩行解析にフォーカスして研究を進め、筆頭著者で20以上、共著を含めると50以上、国際誌に論文掲載された。
2019~2022年 滋賀医科大学(助教)
2022年~現在 名古屋市立大学(講師)
2012年~現在 東京大学生産技術研究所(研究員)、富士フイルム株式会社と共同研究、株式会社デジタルスタンダードと共同研究専門医資格:日本脳神経外科学会,日本脳卒中学会
所属学会:国際水頭症学会(理事)、日本正常圧水頭症学会(理事)
日本水頭症脳脊髄液学会(理事)、日本転倒予防学会(理事)
国際MRI学会(International Society for Magnetic Resonance in Medicine)
日本脳神経外科学会、日本脳卒中学会、日本脳卒中の外科学会
日本生体医工学会、日本脳神経外科コングレス、日本神経放射線学会
日本脳ドック学会、日本磁気共鳴医学会、脳神経外科手術と機器学会、日本認知症学会
高齢者を見るすべての人に知ってほしい「ハキム病」について書いた1冊
――著書『成人慢性水頭症 ハキム病診療ハンドブック』はどのような内容でしょうか?
【著書からピックアップ💡】
特発性正常圧水頭症(iNPH)の歴史としては、1960年代後半に「治る認知症」として神経学界を一世風靡し、日本でも1970年代に注目されるようになった。
実は65歳以上の1%以上、70歳以上の3%以上にハキム病が潜んでいる可能性があります。
【著書からピックアップ💡】
国際水頭症学会は、日本で、2012年・2017年・2024年の3回開催。未だ他のアジア諸国では開催されたことがないことに加え、世界でも3回も開催された国はないことから、日本はiNPH診療の先進国として国際的にも認知されてきた。
――この本を出版したきっかけは何だったのでしょうか?
「ハキム病」という名前だけでも知って欲しいという思いから、本を書きたいと思うようになりました。
本の中に書かれていましたが、名称変更を求める声が国際的にも高まっていたことの理由として、実際には患者数が相当多いにも関わらず、なかなか受診する患者が増えないこと。その理由の一つが、名前が複雑で難解な印象を与え、専門家以外には浸透しにくいのではという疑念もあったからなんですね。
――著書『成人慢性水頭症 ハキム病診療ハンドブック』の裏話をお聞かせください
――今まで、特発性正常圧水頭症(iNPH)と呼ばれていたものを「ハキム病」へ名称改変にあたり、様々なご苦労があったかと思います。「これはハキム病では?」と気づくことができるポイント、また今後「ハキム病」という名称が認知されることで期待したいことは何でしょうか?
認知症で最も有名な病気は「アルツハイマー病」ですが、「アルツハイマー病」と比べると「ハキム病」は、会話していても辻褄が合い、話していた内容は記憶できています。一見して認知症のようにみえないのに、注意力散漫で、反応が鈍くなり、やることを間違えるなど転倒や運転で事故を起こすリスクが高い可能性があり、注意が必要です。
一方、歩行障害は「パーキンソン病」の歩き方ととても良く似ており、長年誤診され続けている患者さんが今も多いのが問題になっています。
ハキム病に特徴的な三兆候
◆歩行障害⇒「開脚」「小刻み」「すり足」歩行。
◆認知障害⇒一見して認知症のようにみえないのに、注意力が散漫で反応が鈍くなる、やることを間違える。加えてよく見られる症状として、無為・無関心、抑うつ、不安感であり、一日居間でボーとテレビを見ている患者さんが多い。
◆排尿障害⇒初期は頻尿や尿意切迫感のみ。症状が進行すると、トイレまで間に合わない尿漏れ、切迫性尿失禁となっていく。
――高齢化社会となり、認知症患者もますますの増加が予測されます。現在認知症を疑った場合、「もの忘れ外来」「認知症外来」など医療機関の窓口があります。しかし、もし認知症のひとつである「ハキム病」を疑った場合、どこに相談したらよいか悩むと思います。そういった場合の相談先はあるのでしょうか?
転倒をきっかけに病院の救急外来を受診して、頭のCTスキャンを撮影して、発見される患者さんも増えてきています。
物忘れよりも、歩行障害が目立つ患者さんは、CTかMRI検査を受けられる脳神経内科か脳神経外科に相談してください。
ただし、認知症や脳神経内科、脳神経外科の専門医の先生達が皆、この病気に詳しいわけではありません。残念ながら現状では多くの患者さんが病院を受診しても、頭のCTスキャンを撮影しても、この病気を見逃されてしまっています。
できれば、認知症や脳神経内科、脳神経外科の専門医全員にこの本を読んでもらいたいと思いますが、難しいでしょうから、水頭症を疑った場合は、まず水頭症を専門に掲げている先生の外来を受診するのが良いと思います。そのような病院、医者は、iNPH.jpというサイトに掲載されています。
「iNPH.jp」のサイトに掲載されている山田先生のドクターズボイスはこちら。
クリックし、ぜひご覧になってください。
―― この著書をどんな方に読んで欲しいと思いますか?
本の宣伝文句が『高齢者を見るすべての人に知ってほしい「ハキム病」を1冊で』ですので。
―― これから書いていきたいものがあれば教えてください。
ハキム病の症状が出現した年齢が60代後半や70代の方が多く、長いこと原因がはっきりとせずにその症状と付き合ってきたことは大変なことだったでしょうね…。
そんな中、山田先生のもとを訪れ、的確な診断と治療をうけることができたことは、皆さんにとって本当に救いだったと思います。
「今まで生きてきた中で今が一番幸せです」とおっしゃられた患者さんの言葉がとても心に残りました。
ハキム病患者さんとご家族のそれぞれのドラマ、今後執筆される機会がありましたら、ぜひ拝読したいです!
今の夢は、「ハキム病」という病気を一般の方々に広く知ってもらうこと
―― これからの夢、目標などがありましたら教えてください。
本に書いておりますが、私は、AIやスマートフォンを活用して、歩行障害や認知障害の自動判定や、画像診断の自動判定してくれるアプリを開発する研究を行っています。これらのAIによる診断支援は近未来の医療では確実に身近なものになると考えており、「ハキム病」を見逃されてしまう患者さんが減り、現在は手術という治療法しかありませんが、 「ハキム病」の進行を食い止める薬、症状を軽減する薬が開発されて、より多くの患者さんがハッピーになって欲しいと願っています。
――先生、ありがとうございました!この著書を拝読するまでは、「ハキム病とは一体何か?」と思っていたのですが、ハキム病の症状などを知り、実際に自分の周りや今まで関わってきた方の中にもハキム病患者さんがいたのでは…と思いました。とても勉強になりましたし、医療者だけでなく一般の方にもハキム病が認知されて欲しいと心から思います。この著書がたくさんの患者さんやご家族にも届きますように、祈念しております!
山田茂樹さんの公式情報はこちら
Webページ:https://researchmap.jp/shigekiyamada
(写真/すべて著者・山田茂樹さん提供)
「ナゴヤビトブックス」では「ナゴヤが舞台となっている作品」「ナゴヤをテーマとした書籍」「ナゴヤ出身の著者の書籍」など、ナゴヤに縁のあるあらゆるジャンルの書籍を著者へのインタビューを通じてご紹介いたします。
書籍を版行された著者様がいらっしゃれば、こちらのフォームからぜひお気軽にご連絡ください! (小説、マンガ、ビジネス書、実用書、各種ムック、その他ジャンルは問いません)
その他ナゴヤビトへのお問い合わせはこちらからお願いいたします。
この記事へのコメントはありません。